DSCRを知らずに借りてはいけない——返済余力を測る指標

こんにちは。株式会社梶原エステートの梶原です。
収益物件の購入を検討していると、利回りや返済額には目が向きますが、「その返済が安全圏にあるかどうか」を測る指標はあまり知られていません。それがDSCRです。
金融機関が融資審査で必ず見ている数字でもあります。借りる側が同じ指標で自分の物件を見ておけば、無理のある借入を避けられます。
DSCRとは何か
DSCR(Debt Service Coverage Ratio、債務返済カバー率)は、物件が生む収益で、年間の返済をどれだけ賄えるかを示す指標です。
計算式はシンプルです。
DSCR = 年間純収益(NOI) ÷ 年間元利返済額
ここでいうNOIは、満室想定の家賃収入ではありません。空室損を差し引き、管理費・固定資産税・保険料・修繕費といった運営経費を引いた後の純収益です。この前提を間違えると、数字は意味を失います。
DSCRが1.0であれば、収益と返済がちょうど同額。1.0を下回れば、物件の収益だけでは返済できず、自己資金からの持ち出しが発生します。
目安は1.3以上
実務上の目安として、金融機関は1.2から1.3以上を求めることが多いとされます。
なぜ1.0では足りないのか。NOIは変動するからです。空室が増えれば下がり、修繕が重なれば下がり、家賃が下落すれば下がります。DSCRが1.0ちょうどの物件は、何か一つでも想定が外れた瞬間に赤字になります。
DSCRが1.3あるということは、純収益が三割目減りしても返済を継続できるということです。この余裕が、賃貸経営における安全マージンになります。
逆に、DSCRが1.1を下回るような借入をしている場合、その物件は常に綱渡りの状態にあります。表面利回りがどれだけ高くても、この数字が低ければ安全な投資とは言えません。
購入前にストレスをかけて計算する
重要なのは、現況の数字だけでなく、悪化した条件でも計算しておくことです。
試すべきは三つです。空室率を現況より悪化させた場合。家賃を一割下げた場合。変動金利であれば、金利が一から二パーセント上昇した場合。
このいずれかでDSCRが1.0を割るなら、その借入は安全圏にありません。特に金利上昇は、近年あらためて意識すべき要素です。変動金利で長期の借入をするのであれば、金利が上がった状態でのDSCRを確認しておくことが、現実的な備えになります。
DSCRが下がったときの打ち手
保有中にDSCRが悪化することもあります。その場合の選択肢は、分子を上げるか、分母を下げるかです。
分子を上げるとは、純収益を改善することです。空室を埋める、家賃を適正化する、運営経費を見直す。これまでのコラムでお伝えしてきた管理の実務が、そのままここに効いてきます。
分母を下げるとは、年間返済額を減らすことです。具体的には、借り換えによる金利引き下げか、返済期間の延長です。期間の延長は総支払額が増えますが、毎年のキャッシュフローは改善します。繰上返済も返済額を減らしますが、手元資金が減るため、空室や修繕への耐性とのバランスを考える必要があります。
複数所有なら全体で見る
物件を複数お持ちの場合、個別のDSCRに加えて、全体での数字を把握しておくことが有効です。
金融機関は、新規の融資審査で既存の借入を含めた全体の返済能力を見ます。一棟目のDSCRに余裕がなければ、二棟目の審査に影響します。拡大を考えるのであれば、各物件のDSCRに余裕を持たせておくことが、次の選択肢を確保することにつながります。
まとめ
DSCRは年間純収益を年間元利返済額で割った指標で、返済の安全度を示す。1.0は収支が均衡する水準にすぎず、実務上は1.3以上が目安になる。計算に使うNOIは満室想定ではなく、空室損と運営経費を引いた後の数字でなければ意味がない。購入前には、空室率の悪化・家賃下落・金利上昇の三つでストレスをかけて確認する。悪化時の打ち手は、純収益の改善か、借り換え・期間延長による返済額の圧縮。
利回りは「どれだけ儲かるか」を示す数字ですが、DSCRは「どれだけ耐えられるか」を示す数字です。投資判断には、両方が必要です。
検討中の物件のDSCRを一緒に計算したい、という段階でもお気軽にご相談ください。
株式会社梶原エステート
代表取締役 梶原 淳
不動産売買・売買仲介・賃貸管理